インシデントレスポンス
英語表記:Incident Response
インシデントレスポンスとは、サイバー攻撃や情報漏えい、システム障害など、セキュリティ上の「事件」が発生したときに、それ以上の被害を防ぎ、影響を最小限に抑えるための一連の対応プロセスです。
ここでいう「インシデント」は、単なる不具合やトラブルではなく、組織の情報資産やサービスに悪影響を及ぼす可能性のある出来事を指します。例えば、不正アクセスによるデータ改ざんや、マルウェア感染による業務停止などが代表例です。
対応は、場当たり的に行うのではなく、あらかじめ決めた手順に沿って進めることが重要です。一般的な整理としては、(1)事象の検知、(2)影響範囲の特定、(3)原因の封じ込め、(4)復旧、(5)再発防止といった流れで説明されることが多いでしょう。
一方で、国際的に参照されるNIST SP800-61では、より体系的に「準備」→「検知と分析」→「封じ込め・根絶・復旧」→「事後対応」という段階が示されています。最新版のSP800-61r3ではさらに詳細化され、組織ごとの規模や体制に応じた柔軟な運用が推奨されています。
つまり、単純な流れで理解することもできますが、実務では国際基準を参考に多面的に備えるのが現実的といえるでしょう。
初動の遅れは被害の拡大につながります。だからこそ、迅速さと正確さが求められるのです。インシデントレスポンスは「事後対応」だけでなく「事前準備」から始まっています。計画(インシデントレスポンス計画)を整備し、関係者の役割や連絡経路を明確にしておくことで、いざというときに迷わず動けます。机上演習や模擬訓練を定期的に行う組織も少なくありませんね。
また、対応の過程では、技術的な調査だけでなく経営層や広報部門との連携も欠かせません。被害状況や対応方針を社内外に正しく伝えることは、信頼維持に直結するからです。場合によっては、法令に基づく報告や監督官庁への届出も必要になります。
被害の大きさや復旧までのスピードは、初動で適切な判断と行動ができたかどうかで左右されます。日頃の準備と訓練が、危機のときに冷静な対応を可能にするのです。
インシデントは起こらないに越したことはありません。しかし、もし起きてしまったら迅速に立ち向かい、被害を最小限に抑え、安全な状態へ戻す。そのために、事前からインシデントレスポンスを備えておくことが欠かせません。
用語解説の監修:増井 敏克